静かな空間は、あっけなく崩れ落ちた



勉強はサクラの味



 かり かり  と何かを書き込む音。声一つしない。ここはもう異質ともいえる空間だ。
 そして、ここにいつ人もどこか虚ろというか心此処にあらず、と言ったかんじ。
 人も空間もおかしいと思った。


 人間というもの、時には自分でも理解できないような行動をとることもある。
 今の僕がそうだ。
 そんなに図書室を利用しない(買えそうに無い本が置いてあると借りるくらい)僕が、なぜ「その」図書室にいるかと言うと、……まぁなんといいますか、その、うん。あれだよ、アレ。
「ほら!いい加減にこっちに戻って来い!!」
「……。うるさいよ。わかってるって」
「分かってないから言ってるんじゃん。勉強しに来てんだよ。べ ん き ょ う」
 とまぁ。勉強をしてるわけです。

 いつもならこんなに深刻に考える問題ではないと思うんだけど、まさかの赤点をとってしまった挙句、追試が明日というね。最悪なコンディション。あれ、どう書くんだっけ?

「おかしいって。今回のヒナタ。どうやったらこんな点とれるの?」
「うるさい。少しは集中させろ」
「じゃあ、大人しく勉強しろ。誰が勉強見てあげてると思ってるの」
 横でうるさいのはお隣さんのリン。こいつの方こそあんな点とれるよなって思う。こいつの頭の良さはクラスのやつらの折り紙つきだ。
 僕が頼んだんじゃない。勝手にくっついてきたんだ。

 とりあえず教科書に載ってる単語を覚えることにした。リン曰く「単語も覚えないでなにやってんだ」。
 いつもみたいに邪険には扱わないでおこう。
 ・・・って。こいつ全然教えてくれてない。

「よくもまぁ。生徒会の方が追試だなんて。先生もかわいそう」
 もう徹底ムシだ。黙れ生徒会長。
 あーもう。気にするな僕。明日のためにがんばれ。
「あーあ、折角委員会のハナシを持って行こうとしたのにな。残念だよ、会計君。あ、委員会明日あるからね。追試終わったらすぐに来てね」
「うそ。労いってのはないわけ?」
「口動かすなら手も。ないよそんなの。当たり前じゃん、いつものだもん」
 最近ついてないな。まったく
 どうやら、明日の委員会は来年度の入学式の事らしい。タイヘンだな会長さんは。
 でも。パシられんのは僕。いつものこと。もう気にしない。気にしてるんだったら、もうとっくに越しててコイツのお隣さんなんてやってないさ。

「ペースが遅いね、ヒナタは。集中力をココで使うんだって」
「………、どうやって勉強してるんだ?ていうかいつやってる?」
「ふつーに。皆と同じじゃない?」
 いや、絶対に違うね。なんか特別な機械を使って頭の中に叩き込んでるんだ!…ってああ、違う違う。勉強に集中しよう。
「遅い。ちょっと散歩してくる」
「うい」

 よし。あいつがいないうちに完成させよう!!頭に叩き込んで帰ってやるんだ。単語はなんとかなったから後は文法を。

 もうすぐ春になるというこの陽気は、案の定集中力を失くさせて、英語は全くすすまない。

 なんで…こう意味不明なものにぶち当たってるときに、肝心のリンがいないのさ。タイミング悪い。全く持って悪いよリンさん。
 もう駄目だ。わかんねーよ。
 わかんないって3回書いたら分かるようになるかな………


ぴと

「どうだい?はかどってるかな?」
「!!!」
 よくもそんな事を!落ち込んでるヤツにそれはひどい!!炭酸を頬に押し付けやがった。
「驚いた顔、さいあくー。お、文法まで進んだね。感心感心」
「お・・・お・・・・・・。」
「どした?…もしかしておかしくなっちゃった?!」
「教えてください!!!」
 何かがバクハツした。もうなりゆきにまかせろ、だ。爆笑してるリンを見て悔しくおもったのは久しぶりだ。

 その後の勉強は、炭酸のおかげか、生徒会長のおかげかわからないけど(できれば前者で)、スムーズに進んだ。
 明日の追試も突破できるだろう。



 帰りはお隣だから、今日は一緒。勉強のお礼にドーナツを一つ買った。
 リンは凄い嬉しそうだった。

 家の前で別れたあと、携帯にメールが来た。
 リンからだ
『明日がんばって!またこんな顔にならないようにね』
 こんな顔ってのは添付ファイルの……泣きついた俺の顔だった。



 やっぱりあいつはかわいくない







2007/03/09