いつだったか、もう忘れてしまったけれど、君に会いに行ったことがあった。
もう会わないと決めていたんだけど、どうしても聞いて欲しいことがあったから。
普段使わない電車に乗って、バスにも乗った。
電車に揺られているときに見た窓越しの景色は、黄色を帯びていて、いままでいた所とは違うんだなと思った。僕の空は衝きぬけるような青色をしているから。段々と黄色くなっていく空をじっと見ていた僕を、目の前の人は不思議そうに見ていたけれど、気にはならなかった。耳に繋げていた音楽が、僕を他のものから守ってくれていたような気がする。
バスを降りても、君の元にはたどり着かない。
まわりの景色があまりにも違いすぎていて、僕は、この世界から外れた存在のように思えた。
でも、君に会うまでは僕は何も話さない。何も言わない。今ここで口を開いてしまったら、僕の気持ちも、君への言葉も全て流れ出てしまう気がした。だから何も言わない。
君のところまで歩く。音楽が僕を切り取っていて、不思議な感じがした。
あまり気にならなかった。
空は、もう黄色ではなくオレンジ色になろうとしている。
共に住んでいた人には何も言ってこなかった。そいつが出掛けているときに、ひっそりと出てきた。あいつは何も言わないだろう。これは甘えなのかもしれない。そう思いながらも、荷物を残してきたんだ。
きっともう少しでたどり着くだろう。
僕は君になんて話し出すんだろう。
検討もつかないけれど、そんなことを気にする必要はないはずだ。自然と出てくる言葉に身を任せるだけだから。
書いてあった所まであとちょっと
『もし、あなたがこれを読んでしまったなら、』
絶対に開けないように。どうにもならないほど気持ちが溢れてきてしまいそうならこれを開けて。・・・でもわたしはそれがずっと開かれないことを望んでいるの。
って、言っていた。いつの事だっただろう。僕が小さい頃のはずだ。
紫色になった空の下で、僕は目的地にたどりついた。
やっと、たどりついたんだ。
その地に根付いていた真っ白な花。
彼女は静かに、僕の手が触れるのを待っていた。
あなたへ
0412