夕日がとてもきれいだった。
急にあなたに会いたくなった。
あなたと私の距離間
自転車は道端においておいた。鍵もかけておいたから、きっと盗まれることもないだろう。今はとにかく走ってあなたの所へ向かう。今日は鞄をリュックにしておいて本当に良かったと思った。
いつもあなたから声をかけられると、わたしはいつも愛想もなにもあったもんじゃないといった顔と声で返事をしていたね。わたしは照れ屋なんだよ。知ってるかもしれないけど。
いつあなたと離れ、別の道を歩むのだろうとか、そういうことを考えると苦しくなる。水の中で酸素がなくなっていくのを静かに待っているかのように。もがける苦しさじゃないんだ。ずっと待っていなくてはならない苦しさだった。あなたはそういうことに聡いから、きっとすぐに気づいてしまう。あなたに知ってほしくない。これはわたしの意地であり、私のものなんだ。
わたしが一人で背負っていればいい。そう思ってた。
さっきあなたと別れたばかりだから、きっと遠くには行っていない。自転車はいつも押して帰ってるから。
『そこで待ってて』
って送った。絵文字も顔文字もつけなかったけど、きっとわかってくれるよね。
分かれ道の橋を渡る。
なんでこうやって走ってるのかもわからない。自分はどうしてこんなに必死に走ってるんだろう。何かから逃げるようにひたすら走る。理由なんて、あなたに会えば思い出す。
今はあなたに会いたいんだ。
世界が流れるように変わっていく。
紫は色を濃くして、わたしを包み込もうとする。
「今日で世界がおわってしまうなら」
と、クラスの子が話していた。外国へいくとか、彼氏と一緒にいるとか。そういうことを言っていたかな。どれも素敵だと思ったけれど、わたしには意味が無いことのように思えた。終わってしまったらそれまでだよ。くだらない。
後姿を見つけた。
息が上がってしまって、目も霞んでいて、ちゃんとあなたの姿を見られない。
あの姿はあなただよね。間違ってはいないよね。
細い小道で、あなたは待っていてくれた。用件も理由も書いてない文字を信じて待っていてくれたんだ。わたしには出来そうにない。
あなたは大きいんだね。わたしは小さい。
けど、
「どうしたの」
「・・・夕日がきれいだったから」
「もうないけどね。でもありがとう」
「なにが?」
「呼び止めてくれた。君から声をかけてくれたから」
「・・・・・・」
「ありがとう」
「どういたしまして」
もう光が瞬いている。残念だけど、あのきれいな夕日を一緒に見ることができなかった。
でも、そこであなたと見た空を忘れることはないよ。
目の前が広くなったかもしれない。
もし、もしもの話だけど。
世界がおわってしまうなら、わたしは深い水底で想っていることにする。
肩は決して触れ合うことの無い距離。それでも、これがあなたとわたしの丁度いい距離のような気がした。
0421
(声は届かなくても、)