周りと自分の間に引かれた境界線を越えたような、そんな水曜日。

 沈むこと




 桜はまだつぼみのままだった。
 もしかしたら早く咲くかもしれない、なんて言っていたテレビを恨んでもしかたない。でもやっぱり悔しい。空は蒼く澄んでいるというのに。これじゃ意味ないじゃん。
 折角楽しみにしてたのに。しょうがないよ、なんて言って済むようなタンジュンな奴ではないと信じたい。一応。
 温かい陽気はすぐそこまでやって来ていた。太陽も桜のために頑張ってくれてるんだ。

 今日はまだ長期休暇中なので、学校には誰もいない。
 わたしは新学期のために必要なものを学校へ取りに行ったんだ。

 チャイムやみんなの声やボールの音も、何も聞こえなかった。
 本当に静かだった。
 こんな学校もわたしは好き。


 教室の中はやっぱりと言うべきかとても静かで、ほっと息をついた。
 さっさと取って帰ろう。帰って勉強しないといけないんだし。

 教科書と参考書を鞄につめこんで立ち上がる。
 ドアに手をかける前に、窓を開けて校庭を眺めた。もしかしたら最後になるかもしれないんだ。誰もいつまで生きれるかはわからないんだから。なんて哲学っぽい(倫理は大っキライだけど)ことをひとりごちながら。
 校庭は狭くて、何もないようなただの野原と一緒に見える。それも良いと思うけど。
 誰もいない。
 わたししかいない。
 わたしにはこの校舎がお似合いだよ。って笑いながら呟いた。早く帰ろう。もう時間だ。




 桜は結局、新学期まで咲かなかった。
 新学期に顔を合わせたクラスメートが「新学期らしくないよね。こんな満開でさ」と騒いでいた。
 確かに、と思う。こんなこともう二度と無いような気がした。

 賑やかな雰囲気に戻った校舎も、やっぱりわたしは好きだった。
 廊下を駆ける音や、休み時間の賑やかな声や、放課後の部活の掛け声とか。いろんな音で満ちていた。
 わたしは音を立てていなかったけれど。
 ひっそりとそこにいた。

 似ても似つかないような眩い雰囲気。
 それとは対照的に水の中のような空気。・・・と、わたし。




 薄紅色の花弁の下を歩いて帰る。
 花弁が髪や服についていたけれど、そのまま帰る。

 手のひらに乗せてみると、薄紅は宙に浮かび飛んでいった。







0423(音の無いような桜の木の下)