冷蔵庫にあったゼリーを二人で食べた。



 ゼリー



「なぁ、こんなの見つけたんだけど食べる?」
「うん!」

 ももとみかんのゼリーが一つずつ。

「どっちがいい?」
「みかん」

 相変わらずみかんが好きのようで、手渡すとすぐに食べ始めた。今は美味しそうにゼリーを頬張っている。ああやって食べてもらえるならゼリーも本望なんだろうなと思ったけど、くだらないなと思って、自分も食べ始めることにした。

 ……食べてるのはゼリーだけのはずなのに、どうやったらあんなに頬が膨らむんだろう。手元には二口食べてかけたそれしかない。
 こういうことは見てないことにするのに限る。

 夕日が差し込んでオレンジ色になっている部屋はなんだか物静かで、しんみりとさせるような気がした。
 そういう情緒にうとい方だけど、こいつには勝てるような気がする。ゼリーにしか目が行ってないし。「んん〜」なんてうっとりとしてる奴に夕日がどうだの語られたらたまったもんじゃない。



 でも、こういうのをなんだか幸せだなと思う。

 明日がどうなってるのかとか、こうして一緒にゼリーを食べることがまた出来るのだろうかとか、そういうことはなんにも分からない。だから、って言ったらおかしいのかな。こういう一瞬がとてもきれいに輝いてる、ように見える。

 ぼんやりとした夕方が自分の中で鮮やかに残る。
 そういうのがとても好きだ。

 頬や髪がオレンジ色に染まってて、みかんになったみたいだ。

 さっきまでしんみりとした事を考えてたけど、それもちょっとあほらしい。今はこいつと一緒にゼリーを食べてればいいや。

「お前までみかんになってるぞ」って言ったら「そっちこそ桃みたいだ」と笑われた。

 何も言い返せなかったのが悔しかったから、残りのみかんゼリーを奪取して食べた。
 何してんだ返せよ、と軽く蹴られた。けど完食してやった。




 こういうのも大切な記憶になるんだろう。

 馬鹿らしいことを言い合って、じゃれあって、笑って。
 そういう思い出を、またいつかこいつと話して笑えたらいいと思う。






071008