甘いからキライだと言って差し出されたのはサイダーだった。




 あまいもの




 オレは割と甘い物好きだから、ケーキとかプリンとか普通に食べれる。サイダーなんて甘いものの中にも入らないぜ!と言うくらいだ(いや、確かに甘いんだけど)。だから、その時にヒロからサイダーを渡されるなんて思いもしなかった。しかも「甘いからキライ」だって?

「オレさ、割と寛大な方だと自負してるけど今日という日は言わせてもらう。おまえ、おかしいだろ」

 さっさと人にサイダーを押し付けといて自分は雑誌(オレのだ)を面白くなさそうに読んでいる。オレとサイダーの存在を丸ごと抹消したかのような清清しいシカトっぷりだ。ほんの少し素晴らしいと思う。
「……なんだよ」
 少しだけ(本当にほんの少し)こっちへ視線を向けて言う。これじゃあオレがかわいそうだ。
 誰かオレを救ってくれ!って言っても誰もいないから、悔しいので反撃してみることにする。どうせ暇だし。
「おまえさ、サイダーで甘いってのはないだろ。特にコレはそんなに甘ったるくないし」
「かもな」
「だろ? そいで、人に押し付けといてその態度が気に食わない」
「かもな」
「大体さ、一口飲んだら飲め! お前が来るっていうから冷やしといたんだ。感謝の意をこめて飲め!」
「かもな」
「………。聞いてないだろ、おまえ」
「かもな」
「………」
 もう嫌だ。誰か、こいつをどうにかしてくれ。

 会話する価値なし!そう判断したオレは目の前のサイダーを一気に飲んだ。
 やっぱり甘くないじゃん。この暑さにはちょうどいいのに。

「ほら、」
 急に顔を上げて言うものだから、ビックリして変なところに炭酸が行きそうになった。むせて涙目になりながら、やっとヒロの顔を見る。
 ヒロはにやり、とした様子で
「それ飲んだ。やっぱしアキは甘いの好きじゃん」
「おまえな……、オレの分だって用意してあんだよ。わざわざおまえのを飲む必要はないのにオレは飲んでやったんだ」
「いいのいいの。気にしない気にしない」

 何故だかものすごく機嫌がいいヒロを見て、納得できないオレは悔し紛れにヒロの足を蹴っ飛ばす。いってーな、と怒鳴るヒロを無視して残りのサイダーを飲み干した。






071222