飛んでみせるさ




「馬鹿なこと言ってないで勉強したら」
 心底呆れた、って顔をして言うもんだから、ああ本当に馬鹿げてるんだなと再確認した。本日は、曇り。絶好の<空飛び日和>…とはちょっと違うけれど。
「そうだね」
 気の抜けたような声で返事をすると、無言で冷ややかな視線。ちょっと怖くて振り返れば、上目遣い(けれど迫力の方が強い)で見てくる…というよりは睨み付けてくるコイツ。うわぁ。そんなにおかしいことかな。
「あんたさ、本当に成績の方がやばいんだから」
「うん。わかってるけど」
 がしっと(そりゃあもう勢いよく)準備を続けている俺の手を取って無理やり中断させられた。こうなったらきちんと話をしないと開放してくれなさそうだ。

「わかってるなら、」
 少し緩んだ手を振りほどいて対峙する。
「わかってるけどさ、それよりも、今日はこれ。お前だってそのために来てんじゃん」
「…あたしは、あんたよりも成績いいから問題ないもん」
「たしかに…」
 成績の悪い俺がこんな時期(テストが間近に迫っている)に、ここへ来てるのは間違いだって言うのはわかる。勉強しなきゃまずいだろうし。でも、
「勉強は飛んでからにする。 ちゃんとやるよ。これからものすごい勢いでやるからさ、」
 だから見逃して? 首をかしげて精一杯のお願いポーズ(男の俺がやっても意味はないけれど)をしてみると、意外にも折れてくれて「じゃあ早くしなよ?」と言われた。

 部屋に俺のダミーを置いて、親にさえ黙ってここに来てんのにさ。やさしーね。
 やっぱり、目的が一緒のやつが飛ぶのを拒否るわけがない。持つべきなのは共通の趣味友達だね。 と語ると「さっさと行け!」と言われてしまった。さっきまでやさしかったのに、女ってのはコロコロ変わるから…

「…じゃあ、行ってきます」
「うん、いってらっしゃい」
 きっと手を振ってくれてるんだろう。わからないけれど、後ろに向かって手をひらひらっとさせてみる。



 大きな人工の翼を広げて、俺は坂を駆け下りる。
 目の前には青しか見えない。







080104