ひらひら落ちるピンクの花弁が鼻先を掠めて行く。
もうあの頃とは違うんだなと気づいた。
分かれ道で振り返った
今では至るところで思い知るようになった。今までとは変わってしまったものをよく目にする。それは、僕をほんの少しずつだけれどじわじわと締め上げていくような感覚だった。苦しかった。
風呂に入ったときに細くなった腕を見たとき。
今までよりも少ないご飯の量。
体調も、ちょっとだけ崩しやすくなった。
あんなにも毎日やっていたことをパタリとやらなくなったのだから、当たり前と言えばその通りなのに。それに気がついて苦しくなってしまうのはどうしてなんだろうか。目の前の苦しさを忘れようとして別の事をやろうとしても、更に追い討ちをかけるように辛さが現れてくる。
目の前でずっと流れ落ちていく花弁を掴もうとした。しなやかな花弁は僕の手に留まることなんかありえないことを分かっていたはずなのに。ひとつとして掴めなかった手を反対の手で握り締めると、その温かさになぜだか悲しさを感じる。
何も言わずに歩き続けた足が自然と止まる。――もちろん彼女の足も。
「きっとさ。もう、わたしたちはあの場所には戻れないんだよ」
「時間は誰にだって平等に流れていって、残酷なまでにわたしたちの体と心を離していってしまうんだよ。気がついたときには、もう、取り戻せないんだ」
そう言って悲しそうに笑ったあの頃の仲間は、僕よりも多くの事を知ってしまったのかもしれない。彼女はいつも僕よりオトナで聡い人だったから。いろんなことを知って、沢山苦しんだだろう。けれど、それを見せようとはしない人だから僕にはわからなかった。
そんな顔を見たくなくて、細くなってしまった腕で彼女を抱き寄せる。
彼女は大人しく腕の中に納まった。ぎゅっと、彼女が壊れてしまわないくらいに腕に力をこめて離れてしまわないようにした。
僕らがこれから歩む道は、ひらひらと落ちている桜のように儚いものかもしれない。
でも、知り合えたから、きっとこれからはお互いがそばにいなくても無事に乗り越えていけるんじゃないかと思った。
080306