いつだったかここに連れてきてくれた時、わたし達はふたりともまだ子供で、家を一緒に抜け出して走り回っていた。あの時繋いだ手をわたしは忘れることはないだろう。お腹が空いて足も重くなっていって、まだ子供だったわたし達には絶望的とも言える状況に追いやられても、あなたはわたしを励ましてくれた。結局は一緒になって帰ったのだけれど、とても嬉しかった。ああやって一緒にいられたことをどれだけ感謝すればいいのかわからない。



つめたい指先



 あなたが最後にここに来てくれた時、わたしはもうここから動けなくなっていて、あなたは少しだけ大人になったようだった。ひとりになることを受け入れた日からわたしが好きだった丸みを帯びた頬はゆっくりと直線的になった(今のあなたも十分魅力的で好きなのだが)。
 白い花を抱えて、ゆっくりとこっちへ来るあなたはなぜだか寂しそう。わたしは、ここにいるのに。あなたはわたしに気づかずに通り過ぎて、石のところに花を置いていった。ここへ来てくれたのがとても嬉しいのに、けれどあなたにそんな顔をさせたくない。でも、それを伝える手段はわたし達には残されていなかった。
 しばらくあなたは石の前で立っていたけれど、やがてゆるやかに首を振って、来た道とは反対の方へ歩いていった。よく見ると手には大きな鞄がある。
 どうして、そんな荷物をもってるの。
 追いかけたかったけれど、わたしはここから動けなかった。あなたの背中が見えなくなるまでずっと目をこらして見ていた。一度、見えなくなりそうって時にあなたは振り返ってくれた。けれど、やっぱり首を振って、最後に泣きそうな顔でわたしを見た。

 それからあなたの姿を見ることはなかった。
 わたしは相変わらず子供の時のままで、手を広げるとまだ丸みが取れていない。

 ここで、あなたと初めて行った場所で、あなたと最後に会ったこの場所で、わたしはひとり待ち続ける。ときおり、あなたに聞こえるようにと大きな声で歌った。
「ばいばい。…さよなら、」
 歌の最後に言った言葉は、あなたに届いたのだろうか。







080419