▼めにうつるけしき


 何も見えなくなった君の目には、いったいどんな景色が映っているのだろう。

 僕には分からない。
 君が真っ白い部屋という世界の中で、どこかを見つめているとき、僕にはできることも話しかけることもできなかった。何もしてはいけないような気がした。きっと君は真っ青な海や降り積もった雪の中にいるのだろうから。

 君は僕のことを気配で察知する。
 僕がドアを開ける音にも気づくはずがないのに、開けた瞬間に
「あ、いらっしゃい」
とこちらを見て微笑むのだ。
 僕はただただ驚いて「・・・やあ」と言うことで精一杯だった。

 どうして気づくのだろう。
 いや、別に気配を消しているわけではないのだから、気づかれてもいいんだけれど。不思議でしょうがない。五感のどれかを失ってしまった人は残っているものが鋭敏になるという話を聞いたことはある。けれど、実際にこうしてみることはなかった。

 君は景色と音を同時に失い、なにもない世界に閉じ込められている。





(100324)