●夜7時半

「・・・・・・さーて、と。コンビニ行ってきまーす」
「行ってらっしゃ・・・・・・。ちょっと待て」
「なに」
「いきなりなに買いに行くんだよ」
「・・・・・・おかし」
「はあ?」

「だってハロウィンじゃん、今日」
「確かに。もう夜だけどな」
「それは、おいといて。・・・・・・おい、なんで笑ってんだよ」
「ぷっ」
「オコサマだなーとか思ってんだろ」
「・・・」
「図星」
「ごめんなさい」
「いーけどさ」

「じゃあ、行ってくるから」
「おう」
「暖かい飲み物もついでに買ってきてやるよ」
「サンキュー。じゃあ俺もついでに」
「なに」
「帰ってきたら聞いてやるよ」
「まかせとけ。菓子買い込んできてやる」

(071031)


どうしても探さなくちゃいけなくって、ひたすらに我武者羅に走っている。どこに欠片があるのかもわからないのに目的地を知っているような足にまかせて走っている。
探しているものが人なのか物なのかも分からなくって、どうして忘れてしまったのかも思い出せなくて、それなのにどうしてこんなに必死なんだろうって自分でも驚いている。それでも、僕は探さなきゃいけないんだ。見つけないといけない。
だれなの?
息も上がって景色もどこだか一瞬分からなくなって目の前が真っ暗になった。体を支える力が抜けて膝ががくり、と落ちる。
誰かもわからないから名前も呼べない。どこにいるのかも分からないから探せない。

どうして、どうして、どうして、ここにいないんだよ。
このままだと自分が誰なのかも忘れてしまいそうだ。

(071021)


「『空木』ってさ、ウツギって読むんだ」
「そうみたいだな(珍しく図鑑とか見てると思ったら)」
「俺さ、ソラキって読むんだと思ってたんだ」
「……ま、そう読まなくもないよな」
「だろ? で、そのソラキは架空の木だと思ってて…」
「待て、どーゆうこと?」
「だから。『空にある木』のことだと思ってたんだよ。で、わかんないけど空から実とかが落ちてくるわけ。それを拾ったら、ラッキー、とか」
「………」
「『空洞な木』なんだな。新発見だ」
「………」
「? なんだよ、黙り込んで。会話しよーぜ会話」
「いやー…。意外とロマンチストだなと思って(どうやったらそういう風に考えられるんだ?)」
「まーねー。俺、意外と夢見る少年なの」
「………」
「……ごめん」
「………」
「ごめんって。うそうそ。…会話しよーよ。してください」

(071016)


空を飛ぶ鳥のように、自由に空を飛んでみたいと思わなかったわけではない。
こんな風に、地面に縫いつけられたみたいに足を地から離すこともできない自分を呪ったこともある。
道も信号も標識も何もない。
ただ自由がひろがっているそこへ、自分は行くことが出来ないんだから。

それでも良かったと思えた。

寒いけれど、あなたと一緒にいることができるのだから。
モノトーンのマフラーに顔を沈めて話すあなたのことを見ることが出来る。
こうやって、笑いながら家へ帰ることができる。

縛られていても、そこから抜け出すことができなくっても
そこには小さくてもちゃんとした幸せがあった。

(071009)


冷たい雨はいつまで降り注ぐ?

動かない僕らを追い立てるように強く降ってる雨が差すように冷たい。
座り込んでしまった僕らを無理やりにでも立たせようとしてるの?

身を寄せ合って互いの温かさを感じて、ただがまんするしかない僕らを哂っているのなら、もう止んでくれないか?
どこへも動けないのはわかってるのだから。ここにいさせてほしい。

こうして生きていられるのも不思議でしょうがないのに、
明日をどうやって生きればいいのかなんて、わかるわけもない。

(071002)


朱く朱く染まった中を
僕らは駆け出していく

そっと摘みとった
朱い花はまだ朱い
両手に抱えきれないほど抱えて
君は笑った

首に巻いてるマフラーがなびく
ねぇ こっちに来てよ
ふりむいて少し笑う

首に巻いた包帯が少しゆるんだ
待ってて
と云えずに後を追う

片手に持った一輪の花

夕日のような君の背中
滲んで闇に沈んでいった

両手に抱えた真っ赤な花

まぶしかった君がもう見えないよ

 追いかける少年の姿も
 朱くなって消えていった

(070924)