浴槽に浸かってじっと動かないでいる。
少しだけ振動する水面は、自分の鼓動と一致する。

シャワーから垂れる水滴が唯一の音

さっぱりするとは言うけれど、やっぱり嫌なことばかり思い出す。
そう思っている自分が好きじゃない。

でもお風呂でわたしは生きていることを実感するのだ。
静かな鼓動を感じることができるから。

(071204)


 こうして、便箋を目の前にして書くことを考えてみると、あまり共通する話題がなかったことに気づきました(あの頃はまだ小さかったこともありましたが)。偶然出会ったということがあったから、こうやって知り合いになれたのだと思います。ああやって出会わなければ、僕らの中には共通点のひとつも見当たらないまま、それぞれの人生を歩んでいたんだろうと思います。
 そんな貴方に手紙を書こうとしています。
 無事にこの手紙が届きますよう。

(071206)


●流星群

「さ、さ、さむ、いね」
「おお・・・・・・さむっ」
 二人して見上げた空は雲ひとつない。まさに天体観測日和だ。
 ちかくの空き地で毛布にくるまって観測をしてるわけだが、
「おれ、もう・・・・・・ねむい」
「寝るなよっ!・・・うう、さむい。寝たら死んじゃうし、星も見れないぞ!!」
「うわっ!!星見れないのはいやだ!!」
「(星の方が大切なんだ・・・)」
 開始して30分とたたずに寒さでリタイア寸前まで追い込まれている。

「おおっ!!」
「見たか!?」
「うん。見たよ!!きれいだー」
「だなっ。やっと一つ見れた・・・」
「え?・・・俺は、もう、2つ見つけたけど?」
「へ?」
「てっきり、お前も見てる、と、思ったのに・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

「ごめん」
「いや、謝んないでいいよ」
「でも、ごめん」
「・・・こっちこそごめん。見てなくって」

(071215)


●ストラップ

 目の前に居座っているこいつの携帯に、ドーナツ屋でもらえるストラップがぶら下がっていた。不釣合いすぎる・・・!! と噴出してしまいそうになるくらいには似合ってなかった。どうしてあんなのをつけてるんだろう。めったにストラップをつけないから、シンプルなのが好きなんだろうなーとは思っていたけど。それにしてもこれはなかなか・・・。
「何見てんの?」
 うお、気づかれた。
「・・・変わったストラップ着けてんだな」
「あーこれ? ねーちゃんが持ってきたんだ。少しくらい着けたらどうなの!?って怒鳴られたんだぜ! リフジンだよなー。けど、あまりにもうるせーからつけてやってんだ」
「そ、か」
「おい、せっかく答えてやったのにそんな返事はないんじゃないの?」
「・・・おお、ごめん」
 目の前でブラブラと揺らす姿が幼い弟でも見てるような感じがしてちょっと和んでた。
 そんなことは言わないけどな。
「そうそう。これ、」
 とニヤニヤしながらいきなり差し出されたのは人形がちょっとだけ違う色違いのストラップ。
「なに、これ?」
「ねーちゃん、2つ持ってきたんだ。だからさ、お前もつけろよ?」
 そんな満面の笑顔で言われたらどうしようもない。弟みたいな目をされたら、実際に弟を持つ俺としては「 い や だ 」とはっきり断るわけにいかなくなってしまった。

 次の日から、俺の携帯にもとっても可愛らしい人形がつくようになった。
 まわりから何を言われても何も返さないことにしている。

(071223)


●クリスマスイブ

 今日は残念ながら(例年通りだけど)ホワイトクリスマスにはならなかった。
 いつもほんの少しだけ期待を抱いてしまうのはしょうがないことだろう。そして、毎回その期待が裏切られてショックを感じるのが恒例行事、といった感じだと思う。こどもの頃から変わらないもののひとつがそれだ。
 流石に、もうサンタクロースの存在を信じてるわけではない。それはちょっとムリがある。
 けれど、それくらいの期待はしていたっていいだろう?

「さーさー、ローソクの明かりを消しましょ」
「何でローソクが刺さってんだ? 誕生日でもないのに」
「気分だよ、き ぶ ん。それくらいいいじゃん。折角お店の人がつけてくれたんだから」
「まー、な」
「いっせーのーせ、で消すんだからな。抜け駆けは絶対に禁止!」
「おーけー」
「じゃあ、いくぞ。・・・・・・せーの、」

 雪が降らなかった代わりになのかは分からないけれど、今年のクリスマスケーキは真っ白なやつだった。
 そういう意味で買ってきたわけでは断じてないんだろうけど、こいつにちょっとだけ感謝して、火をゆっくり吹き消した。

(071224)