月がきれい

すごく淡いのに、確かに存在してるんだね。



僕は、人のことがわからない。
僕は、自分のことすらもわからない。



空を見て、何も思わないわけじゃない。
雲ひとつ無い青空はすっきりとした気持ちにさせてくれるし、雨が降れば物悲しくなる。

けれど、今はそう思う感情が薄い。
彩度が落ちているような感じ。ガラスが目の前にあって、どこか他人事のような。

人と話せる。笑顔も作れる。
空を見て何かを感じ取ることだってできる。
けれど、薄いんだ。

どうしてかわからない。

けれど、周りが色あせたように感じる。
色あせたのはきっと自分のほうだ。



ゆらゆらと光る水面は、とても眩しかった。

その向こう側にいる君はきっと、僕のことを待っているのだろう。
わずかに見える手が、まるで掬いあげようとしているようだった。
君はずっと冷たい水に手を浸して待っている。
かすかに君の影が見えるような気もする。

だけど、僕はそこへ向かおうとはしない。
僕は、水の底から見上げているだけで、何もしていない。

少し伸びた髪がゆらゆらとなびいている。
口から出た泡が、輝きながら上っていって、見えなくなった。



本当はわかっているんだ。
もう、そろそろ向こうへ行かないといけないことは。

だけど、君だって分かってくれるだろう?

ここは僕にとってとても温かくて、気持ちがいいんだ。
ここは僕を拒否しない。誰も僕を否定しないんだ。
静かに僕のことを見ていてくれる。



だから、そっちへ行くのはもう少し先のことになりそうだ。

それまで待っててくれるかな。
きっと、必ず、そっちに行くから。



空は涙を溜めて こぼさなかった



セカイが鮮やかになっていく

色褪せて味気なくて自分が存在してはいけないようなセカイが、色づきだした。
セカイが輝いていて、しあわせで、もしかしたら私がここにいてもいいんじゃないかと思えるような気持ち。
華美になったというよりも、色付いた、っていうほうがしっくりくる。

まだ淡い色合いだけれど、それでも確かに、世界に色が付いている



わたしが また すこしずつ 変わっていくんだ



人間としてこの世に生を受けたとしても、必ずしも人間の心が最初から備わっているわけじゃない。
空が押し潰そうとしてる





(100328)