それからは、またくだらない話をした。



 また、空を見た時には紫色の空に変わっていた。「5年前みたいだ」と笑った。
 少し肌寒い空気が空気を揺らす。僕らを少しだけ急かすように。

 お互いに門限があるわけじゃないけれど、星が見えるようになるまで話し続けた後、帰ることにした。
 二人とも電車を使うから駅へと向かう。僕が上りで、涼太が下り。
 できるだけゆっくりと歩いて話をした。

「結局夕飯も食べなかったな」
「そうだね。…僕はあまりお腹空いてないけど」
「うそだろ。俺はもう限界。さっきから残り時間が3分を切ってる」
「早く空を飛んで帰らなきゃ」
「そうしたいんだけど、空腹すぎて空も飛べねえ」
「使えないね」
「まったくだ」

 夕飯は家についてからになりそうだ。涼太もとりあえずは平気そうだし、お金があまりない(これが一番の理由だろう)。
 若者は常に飢えているものなのだ、という力説はあまり聞いていなかった。





 駅に着くころには、すっかり夜になっていた。
 もうすぐ、別れの時間になる。電光掲示板には3分後の別れが表示されていた。

「んー。なんだかさぁ」
「?」

 ホームの椅子に座って上を見てる涼太の顔は、なんだか少し嬉しそう。

「いろいろ話せてスッキリした」

 ニカっと最高級の笑顔で笑う。
 その顔が見れてよかったと思った。

「そりゃ良かった」

 僕もいい笑顔で返せたと思う。



「……じゃあな! 風邪引くなよ!」
「わかってるさ。涼太…は平気か。ばかだし」
「なんだと!!」
「ははっ! …じゃあな」
「おう」

 タイムリミット。
 ドアが閉まる。

 閉まる直前に何か言っていたような気がしたけれど、聞き取れなかった。そこまでドラマみたいな展開は起きはしない。特別な約束は、もう果たされてしまったのだから。



 すぐに来た上り電車に揺られている時に、なんとなく手を左ポケットへ伸ばした。
 そこには……電話番号とアドレスが書かれた紙。 「せっかくだから」と慌てて書いて渡されたから、字が汚くて、読めないんじゃないかと思った(もう一回見てみたらちゃんと読めた。なんだかんだで読めちゃうから不思議だ)。 僕も渡した。寄越せといわれたから渋々書いて渡したのだ。
 前はそんな携帯電話を持つような時代じゃなかったし。お互いのきちんとした連絡先は知らなかった。

「携帯にだけでも残しておくか」

 携帯を取り出して打ち込む。必要なところだけ打って登録。 手元に残った紙は、さっさと鞄の奥にしまいこんだ。ぐしゃぐしゃになってしまったかもしれない。



 僕は、この番号を呼び出すことは、これから先きっと無いだろうと感じた。
 ……そんな事を頭の片隅で思いながら、100番に登録された連絡先を見て、まるで祈るようにそっと、携帯を両手で挟みこんだ。





071126